登録販売者として働いているなかで、「オーバードーズ」という言葉を聞く機会もあるのではないでしょうか。オーバードーズは、医薬品を濫用して精神的な不安を紛らわすことで、医薬品への依存度をあげる危険な行為です。
今回の記事では、社会問題として取りあげられることが多くなった医薬品の濫用について解説していきます。登録販売者としての責任や接客での注意ポイントも紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
目次
まずは医薬品濫用(市販薬濫用)とは、どういった行為を指すのかを解説します。医薬品、とくにドラッグストアなどで販売されている市販薬は、体にあまり害はないと考えている人は少なくありません。
もちろん適切な用法・容量を守って使った場合、薬としての役目を果たして体に害を及ぼすことはほとんどないといえます。
しかし、市販薬とはいえ医薬品なので用法・容量を守らない使い方をすれば、薬物濫用になります。体調を改善するために飲んでいるはずの医薬品が、体によくない影響を及ぼす可能性がある危険な行為です。危険な使い方をしないように、医薬品濫用(市販薬濫用)を詳しく理解しましょう。
市販薬を含む医薬品には、濫用のおそれのある種類がいくつかあります。厚生労働省の「第2回 医薬品の販売制度に関する検討会 資料2」では、以下の種類が指定されていました。
これまではコデイン・ジヒドロコデインに(鎮咳去痰薬に限る)、メチルエフェドリンに(鎮咳去痰薬のうち、内用液剤に限る)が加えられていました。
しかし令和5年厚生労働省告示第5号より削除する改正がおこなわれ、令和5年4月1日から上記の成分が入ったものはすべて「濫用のおそれのある医薬品」と厚生労働大臣が指定しています。
上記にあげた「濫用のおそれのある医薬品」を販売する方法は、「医薬品医療機器等法施行規則」で定められています。具体的には、以下の2つを守る必要があります。
①「濫用のおそれのある医薬品」を購入しようとするお客さまに、薬剤師または登録販売者が以下の事項を確認すること
②適正と判断した場合に限り販売等をすること
登録販売者として働く場合、お客さまの健康を守るためにも上記の確認を怠らないように気をつけましょう。
医薬品濫用はとても危険な行為ですが、いまいちピンとこない人も多いのではないでしょうか。ここからは医薬品濫用の具体的な例と、その行為によってどんな危険があるのかを解説していきます。
ODとは用法・用量を守らずに1回の服用で過剰に医薬品を摂取することです。
現在、社会問題にもなっている医薬品濫用の行為でオーバードーズとも呼ばれます。
医薬品は多く飲めば飲むほど効くわけではなく、用量を超えると副作用が出やすくなります。場合によっては救急搬送が必要なこともあるほど、危険な服用の仕方です。
OD(オーバードーズ)の説明でも述べましたが、医薬品には副作用があります。その副作用はさまざまで、ときに精神的な苦痛が和らいだような感覚になることもあるようです。
そういった医薬品の副作用によって精神的な苦痛から逃れたと錯覚して、何度も服用を繰り返してしまい依存していくケースがあります。一度依存してしまうと、自分の意思ではなかなか濫用を止められません。医薬品の摂取量もだんだんと多くなり、OD(オーバードーズ)にもつながる危険性があります。
近年、医薬品の濫用が多くなっています。医薬品のなかにはOTC(一般用医薬品)ももちろん含まれているため、気になっている登録販売者の人も多いのではないでしょうか。
次は、近年の医薬品濫用の実態について、厚生労働省の資料を基に詳しく解説していきます。
厚生労働省の「第2回 医薬品の販売制度に関する検討会 資料3」では、コロナ禍によりOTC(一般用医薬品)の過量服薬による緊急搬送が2倍に増えたことが記されています。OTC(一般用医薬品)は、登録販売者も扱うことのできる医薬品です。その医薬品の過量服薬が急激に増えている実態に、驚きを隠せない登録販売者も多いでしょう。
また、同資料の全国の精神科医療施設における薬物関連性疾患の実態調査では、2012年から2020年にかけて市販薬を主たる薬物とする依存症患者が約6倍にも急増しています。OTC(一般用医薬品)は、処方箋がなくても店舗やインターネットで購入できる手軽な医薬品です。身近な医薬品であるがゆえに、依存先にもなりやすいといえます。
医薬品濫用の対象者のなかでも、話題になっているのが青少年の過剰服用です。精神的にも未熟な青少年が、どうして医薬品の過剰服用に手を出してしまうのでしょうか。厚生労働省の資料では、医薬品を過剰服用してしまう青少年の70%以上が「ひどい精神状態から解放されたかったから」という理由をあげていることがわかりました。
他の理由には、66%が「死にたかったから」、43.9%が「どれほど絶望的だったかを示したかった」、41.2%が「誰かに本当に愛されているのかを知りたかった」とあげています。精神の不安定さが理由のことが多く、医薬品への依存も強い傾向です。
医薬品を過剰服用してしまう青少年の特徴もいくつかあげており、共通点として社会的孤立を指摘していました。登録販売者をはじめ、地域全体で見守っていくことが大切だといえるでしょう。
最後に、医薬品濫用のおそれがあるお客さまを接客したとき、登録販売者はどのような対応をとればよいのかを解説していきます。
前提として、まずは「濫用」という言葉を使わずに対話することを心がけましょう。「薬物濫用」という言葉は聞きなれない人にとっては強く聞こえるので、なるべく避けながら丁寧に用途や理由を聞いて正しい使い方に導くようにしてください。
登録販売者として働いていると、さまざまな場面に出くわす可能性があるので、具体的なシーンを想定して解説していきます。ぜひ接客の際の参考にしてみてください。
本人に濫用の意図がなく用法・用量を間違って服用している場合は、できる限り丁寧に正しい使い方を説明するようにしましょう。登録販売者として働いているなかで当たり前だと思っている知識が、実は消費者側には知れ渡っていないことが多くあります。
とくにOTC(一般用医薬品)は、「効果が薄い」「副作用や依存性はない」と思っている人も少なくありません。事実を知らずに間違えた使い方をしている人には、丁寧に伝えることで濫用の危険性を回避できます。
そのためには普段から親しみやすい雰囲気で接客を行うことが大切です。お客さまの方から相談してもらえれば、事前に正しい情報を使えます。
OTC(一般用医薬品)の販売は、原則一人1箱です。「1箱では改善しないかもしれない」と効果に不安を感じてまとめて購入するお客さまへの対処方法は、2パターン考えられます。
1つ目は、原則を伝えるとともに再び相談に来るように促す対処方法です。再度来てもらうことで、用法・用量を守っているのか確認できます。再び相談に来てもらった際には、1箱飲んでも改善しない場合の対象方法なども伝えるようにしましょう。
2つ目は、原則を伝えるとともに病院への受診も検討してもらう対処方法です。1箱飲みきっても体調が改善しない場合、お客さまや登録販売者では判断できない病気の可能性があります。症状が悪化しないうちに、医者への受診をすすめることも視野にいれておきましょう。
登録販売者として接客をしていると、時には建設的な話し合いができない場合にも遭遇します。薬物への依存度が高まっている人だと、強引に医薬品を購入しようする行動にでるかもしれません。
そういった場合は、「法令上、薬物濫用の疑いのある方には販売いたしかねます。」とはっきりと断るようにしましょう。きっぱりと断ることに抵抗がある人もいるかもしれませんが、お客さまの健康を優先的に考えた結果なので申し訳なさを感じる必要はありません。
お客さまからのクレームが怖い場合は、お断りを入れたあとに上司に経緯を報告しておくと安心です。正しい対応なので、クレームにつながった場合でも上司がしっかりと対処してくれるでしょう。
今回の記事は、社会問題にもなっている医薬品の濫用についてでした。OTC(一般用医薬品)を濫用する人が急増している悲しい現状があるため、登録販売者はより接客に力を入れる必要があるでしょう。正しい対応をするためにも、深い医薬品の知識を身につける必要があります。
また、知識だけでは対応できないシーンも多く出くわす可能性があります。その場合にはどのような対処方法があるのかも知っておくと、登録販売者として働く自分の身を守ることにもつながるでしょう。医薬品の濫用は、登録販売者ともかかわりの深い問題なので、登録販売者として働いている人は一度じっくり考えてみてください。
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